今年7月と8月の地球全体の平均気温は、産業革命前(19世紀後半)と比較してプラス1.5度に達した。2023年の年平均で「プラス1.5度」となれば、12万年前の前回間氷期の気温と肩を並べる。まだ人類が狩猟採集生活を行っていた時代だ。
人類が農業や酪農によって食料を得る方法を多様化させ始めたのは、ほんの1万年前からだ。およそ1万2000年前に氷河期から温暖な間氷期に移行する過程で気候は激しく変動し、地中海東岸では長雨が顕著になり食料が欠乏した。最古の都市といわれるエリコにいた人々はヨルダン川東岸に移住し、野生植物の一年生植物を品種改良した穀物を栽培した。中東で絶滅したガゼルに代わり、羊や山羊を家畜化した。
その後も自然要因による気候変動が人類を農業の大規模化へと向かわせた。農業の開始により人口が増えると、天水農業では限界があった。さらに5500年ほど前、メソポタミア地域で降水量が減って土地が乾燥すると、人々は灌漑施設による農業の大規模化を行った。第2の農業革命といえるもので、これを維持するために組織が必要になり、ウルクやウルなどの都市が造られ文明社会が誕生した。
第3の農業革命は、14世紀から北半球中緯度を中心に「小氷期」という寒冷な時代が訪れたことに由来する。太陽活動の低下と火山噴火の頻発が背景にある。9世紀から13世紀まで地球は比較的温暖で、欧州では小麦やブドウといった地中海由来の食物が北部でも栽培され、アジアでも亜熱帯産の米作が普及していた。このため寒冷化の影響は大きく、食料価格の高騰、飢饉、戦争が頻発した。
この危機に対して、16世紀に新大陸から欧州に運ばれたジャガイモとトウモロコシが救世主となった。欧州北部の冷涼な土地は南米アンデス山地由来のジャガイモ栽培に適しており、瞬く間に小麦畑はジャガイモ畑へと転換した。欧州南部や中国では中米原産のトウモロコシ栽培が広がった。人類は農産物のグローバル化という第3の農業革命で小氷期を乗り切ったのである。
人為的に排出される温室効果ガスによる気候変動(気候変化)で地球全体の平均気温はこの1万年間の水準を超え、12万年前のレベルになる。われわれの食生活も抜本的な変更を迫られ、第4の農業革命が必要になるだろう。
気温の上昇と雨が降る地域の変化により、穀倉地帯での穀物生産は大きな影響を受ける。主要な生産地は、今世紀後半になると乾燥化により土壌の水の含有率の激減が予測されている。高温化や乾燥化による収量減少に対して遺伝子組み換えによる品種改良に期待が集まるが、小麦・コメ・トウモロコシでは限界に来ているという。こうした中で世界人口は21世紀半ばまで増え続け、アジアやアフリカが先進国並みに肉食のライフスタイルを求めるならば、飼料穀物を含めて現在の生産量の2倍が必要になる。その達成は困難だ。
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source : 文藝春秋 2023年12月号