元師匠も男泣きする奇跡の復活

大相撲新風録 第35回

エンタメ スポーツ
友風 ©時事通信社

友風(ともかぜ、神奈川県川崎市出身、二所ノ関部屋、29歳)

「今場所の彼の姿は、言ってみれば『奇跡中の奇跡』みたいなものなんですよ」

 実に4年ぶりに幕内の土俵に上がったかつての愛弟子について、元大関琴風の尾車親方はいう。2022年、日本相撲協会を定年退職して相撲部屋を閉じ、次代にバトンを受け渡した、往年の名大関だ。現在は“参与”として土俵を見守る尾車親方が感慨深げに語るのは、2017年5月、日体大相撲部を経て角界入りした友風のこと。約2年後の三月春場所で新入幕し、番付を西前頭三枚目まで上げ、順風満帆に出世街道を走る。「音大進学も考えた」というほどの腕前で“ピアノ力士”との異名を取り、注目を浴びていたのも思い出される。

 しかし、4年前の十一月九州場所2日目に悲劇が起こった。土俵下に転落し、「外側側副靭帯・前十字靭帯・後十字靭帯・ハムストリング断裂、半月板損傷、大腿骨・脛骨骨折」との診断が下る。右膝下が皮膚と血管一本だけで繋がるほどの重傷だった、と尾車親方は振り返る。

「レントゲン写真を見て愕然としました。骨があっちこっちの方向に向いてるんです。アキレス腱も切れているのが素人目でもわかる。休場のための診断書に、医者が『全治不明と書くしかない。相撲どころか歩くのも困難になるかも』と……」

 友風本人も絶望し、将来を悲観した。

「しかし、大学の先輩にあたり、友風が慕っていた嘉風――現在の中村親方が駆けずり廻った。どこの医者にも『手術はできない』と断られるなか、どうにか執刀してくれる医者を見つけてきたんです。友風のお母さんも、5ヶ月の入院中、その後のリハビリにも付きっ切りで頑張った。まさにこの4年間、周囲が一丸となって支えていたんです。私もかつて膝をケガし、幕内から幕下まで番付を落として、その後に大関まで上がった経験がある。なんの因縁なのか――と、自分の若い頃を思い出して、辛かったものです」

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source : 文藝春秋 2024年1月号

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