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“中二病”だった軍事オタク・小泉悠が当代随一のアナリストになった軌跡

編集部日記 vol.33

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「私は元々、『軍事オタク』なので、特に誰から言われるでもなく、放っておけば一日中軍事のことを考えている人間なんです」

 ロシア軍事の専門家として、いまやウクライナ戦争の解説でテレビなど各メディアに引っ張りだこの小泉悠さん。本サイトでも、高橋杉雄さんとの「ウクライナ侵攻『超マニアック』戦場・戦術解説」シリーズなどでも人気の寄稿者・登壇者のお一人です。

 先日、東京大学先端科学技術研究センターの准教授になられたばかりですが、今回の取材テーマは、いつもと打って変わって「私が大切にしている10のこと」。駒場にある研究室で小泉さんに半生を伺いました。

「全裸中年男性」を名乗るTwitter(現X)から、有識者として語る全国放送のNHKまで、小泉さんはなぜ縦横無尽に活躍することができるのか? 取材が始まると、おもむろに小泉さんは「ちょっとお待ちください」と言って、研究室の奥から一冊のムックを持ってきてくれました。

「これは『航空ファン』という雑誌の『世界の傑作機』という別冊ムックです。こういうものを学生の頃から夢中になって読んでいたんですが、私が若い軍事オタクだった大学生の2000年代は、ちょうどインターネットの普及と重なり合う時代でもあったんです」

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 それまで旧ソ連、ロシアの兵器といえば、不鮮明な写真しかなかった頃。プーチン政権の誕生とインターネットの普及によって、小泉さんは「気軽にマニアックな軍事情報にもアクセスできるようになった最初の世代」だと言います。

 他の研究者が把握していない細部まで、専門知識をアップデートし続けること。最初は「キリル文字が読めたらカッコいい」という“中二”マインドでロシアにのめり込んでいった小泉さんが、今でも徹底して「軍事オタク」であり続ける理由は本記事で明らかにされています。

 取材をしていて、特に印象に残ったのは「能力がないことは諦めて人に任せる」という点。小泉さんが人生の挫折体験として振り返るのが、「大学院時代」と「会社員時代」でした。

「まったく修士論文をまとめることができなくて、ようやく提出できたと思ったらボロカスに言われるようなありさまでした。『私は学者にはなれない』と分かったのが24歳の頃です。

 それで、『しょうがない、ふつうに働くしかない』と覚悟を決め、1年だけサラリーマンをやったのですが、実務ができなくて、これも駄目。厳密に仕事を進める力がなく、やるべき大事なことをつい忘れてしまう。会社を辞めてニート同然の生活をしていたら、25歳になっていました」

 得意なことに集中することで、結果として周囲とは違う存在になるその生き方は、ロシア軍事というニッチな領域を突き詰める研究姿勢とも重なり合います。 

 じつは、この取材当日、待ち合わせ時間を勘違いしていた小泉さん。東大先端研で1時間ほど、到着をお待ちしていたのですが、驚いたのはその後です。小泉さんを待つ間、取材場所を確認しておこうと、研究室の前まで行った文藝春秋取材陣。そこには小泉さんの到着を待つ、また別の男性の姿が! 待っていたのは、私たちだけではなかったのです。

「実務をしない方が自分も周囲も幸せになるというのが、私の基本的な方針です。今日も時間を間違えてしまったようにですね……」と、照れくさそうに笑う小泉さん。王道ではなく、“脇道”を歩き、自らの興味関心を突き詰めることで、追随を許さない軍事アナリストとなる。

 時代の最前線へと躍り出た小泉さんから、これからも目が離せません。「文藝春秋 電子版」で「私の大切にしている10のこと」をぜひお楽しみください。

(編集部・山下覚)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

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