ジブリとゴジラ 日本映画と歩んで

市川 南 東宝取締役専務執行役員
エンタメ 映画

 3月10日、私は入社以来初めて入る米国アカデミー賞の会場で、『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞、『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞を受賞という、日本映画のクオリティーが世界から賞賛された瞬間に立ち会いました。東宝が配給する2作品が同時に受賞するとは、信じられない思いでした。昨年のカンヌ映画祭で、東宝が製作した是枝裕和監督の『怪物』がコンペ部門で上映、坂元裕二さんが脚本賞を受賞したことに続いての快挙と言えます。

アカデミー賞を受賞した『君たちはどう生きるか』と『ゴジラ-1.0』

 平成最初の年に東宝に入社して以来、私は邦画の仕事に携わっています。誰に教えられた訳でもありませんが、「賞を取るよりビジネスを」という意識で仕事に携わってきました。これら3作品は、国内での興行的なヒットに加えて、海外でもヒットした上での受賞となりました。

 入社当時は、邦画がどん底と言われた時代。洋画のシェアが7割で、邦画はほとんどの作品がヒットせず、あまり注目されませんでした。幸運にも私が宣伝を担当した『千と千尋の神隠し』(01年)が興行収入300億円を超える記録的なヒットとなり、ジブリ作品は日本の映画界を支える存在となりました。プロデューサーの鈴木敏夫さんはその時以来の師匠であり年上の友人だと思っています。

 いつも斬新な戦略を立てる鈴木さんの発想は、見習おうにも見習えません。『君たち』では一切宣伝しないという大胆な戦略を提案されました。最初は驚きましたが、確かに宮﨑駿監督への信頼感があれば、事前の宣伝は一切無しという大いなる実験も面白いのではないかと私は賛成しました。結果は公開から4日間の興行収入が『千と千尋』を超えたので、この実験は大成功だったといえます。

『千と千尋』の後、私は映画の「プロデューサー」や「製作」の仕事をしています。『ゴジラ‐1.0』の監督である山崎貴さんともデビュー作『ジュブナイル』(00年)で宣伝を担当して以来のお付き合いになります。『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)の大ヒットの後、『永遠の0』(13年)、『アルキメデスの大戦』(19年)等は私が製作してきましたが、昭和の風景やゼロ戦、戦艦大和を描いてきたのは、奇しくも「戦後」を舞台にした今作への準備だったともいえます。

『君たちはどう生きるか』 © 2023 Hayao Miyazaki_Studio Ghibli

 ジブリ作品や山崎作品と歩んできたこの二十数年間は、アニメーションやテレビ局製作の実写作品も合わせて、邦画が再び伸びてきた時期にも重なります。いつしか邦画と洋画は逆転し、昨年は邦画が7割近いシェアとなっています。世界でも自国製映画がハリウッド映画を上回る稀な国となりました。

 2019年の初夏、山崎さんと食事をしている時に次のゴジラ作品を依頼しました。その3年前の『シン・ゴジラ』(16年)があまりに反響が大き過ぎ、今の映画界で頼むのは、あとは山崎さんしかいない、という思いでした。山崎さんは「過去の時代のゴジラなら」と快諾してくれました。この時代に「戦争」をテーマにしたことも世界から賞賛を浴びた理由の一つです。山崎さんの時代を読む目の確かさに感服しました。

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source : 文藝春秋 2024年6月号

genre : エンタメ 映画