著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、松尾依里佳さん(タレント・ヴァイオリン奏者)です。
母ほどポジティブで、誰かのために動くのが大好きな人に出会ったことがありません。
昭和三十一年、年の離れた五人きょうだいの末っ子に生まれた母は、両親に孫のように愛されて育ちました。その一方、戦後まもない時代に生まれた長兄との習い事の格差を申し訳なく感じたり、姉たちのお下がりばかり着ることを嫌だと思う時期もあったようです。その分、自分の子どもは平等に育てたかったのでしょう。私と妹には、習い事も着る服も、すべて同じものを用意してくれました。
あの時代には珍しく、母は四年制大学を卒業しました。父と結婚し、勤めていた金融機関を寿退社したあとも、「女性も手に職をつけなければ」と考えていた。そんな思いから、娘たちにはとにかく何でも挑戦させてくれました。
私がピアノやヴァイオリンを習い始めた幼少期からずっと、身近な目標ではなく、「いつか大きなホールで弾けるといいね」と、その先にあるキラキラとした夢を唱え続けてくれた母。𠮟ったり、厳しく管理することもなく、私以上に私の夢をポジティブに語ってくれた母。京都大学への現役合格も、在学中にヴァイオリニストとしてデビューできたのも、そんな母のおかげかもしれません。
末っ子らしいのんびりとした母ですが、私が幼稚園や塾に馴染めないときにはスパッと辞めさせる、思い切りの良い行動ができる人でもあります。私が生まれたばかりの頃には、一念発起した父が仕事を辞めて会計士の資格を取る勉強を始めます。乳飲み子を抱える大変な時期に、一家の大黒柱が一年以上無職。私だったら考えられないような状況でも、母は「やってみればいいじゃない」と支え続けた。その甲斐あって、父は会計士の試験に無事合格しますが、そんな夫を奥ゆかしく立てるのではなく、「私のおかげね!」と明るく胸を張ったそう。そんなところも母らしいです。
娘たちが独り立ちした現在、母の無償の愛は、地域猫の保護活動へと注がれています。その活動は、同志と保護団体を立ち上げるほどの行動力と熱心ぶり。
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