『およげ!たいやきくん』の大ヒットで知られる、歌手の子門真人(1944〜)。同楽曲のディレクターを務めた音楽プロデューサーの小島豊美氏が、大ヒットの舞台裏を語る。
声量豊かな歌唱力。もじゃもじゃ頭に丸メガネ。『およげ!たいやきくん』が大ヒットしたのは、子門真人さんのキャラクターがあってこそだと、つくづく思います。
フジテレビの子供向け番組『ひらけ!ポンキッキ』で初めて曲が放送されたのは、昭和50(1975)年9月。もともとは子門さんではなく、フォーク歌手の生田敬太郎さんが歌っていました。視聴者からの反響に伴い、キャニオン・レコードからリリースが決まると同時期に、生田さんが他社のテイチクと契約を結んだため、急遽、新たな歌手を探す羽目になったのです。
番組の音楽ディレクターをしていた私としては、レコードが売れるとは思ってもいなかったので、「歌い手は誰でもよかった」のが本音です。そこで、フジテレビの関連会社であるフジ音楽出版の方に相談し、紹介されたのが藤川正治さんでした。以前から「子門真人」などの名義で、『仮面ライダー』『勇者ライディーン』といった、特撮ヒーローやアニメの曲を歌っていることを知っていたため依頼すると、本人も「ようござんすよ」と快諾してくれたのです。
「子門バージョン」でリリースされた『およげ!たいやきくん』は、半月で100万枚と爆発的に売れました。子門さんも一躍時の人となり、歌番組などに引っ張りだことなりましたが、本意ではなかったようです。趣味のアマチュア無線を搭載した子門さんの車で一緒に移動中、胸の内を漏らされたことを覚えています。
「テレビに出るのが嫌なんだ。なんかねぇ、振り回されているようで」
物静かな人で、子門さんは純粋に歌を唄いたかっただけだったのでしょう。平成5(1993)年に音楽業界から引退したと言われ、表舞台から姿を消しました。今もご存命のようで、知人から「軽井沢にいるらしい」と噂を聞きますが、真相は定かではありません。
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