阿久 悠 僕には絶対書けない

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放送作家から作詞家に転身した阿久悠(1937〜2007)は5000曲を超える作品を生み、ヒットを量産した。日本レコード大賞の受賞曲だけでも、作詞家として最多の5曲を数える。同じく放送作家から作詞家に転じた秋元康氏は、「訊いてみたかったこと」と「お願いしたかったこと」があると言う。

 この言葉はできるだけ使わないように気をつけているのですが、天才です、阿久悠さんは。『ピンポンパン体操』(昭和46年)、『宇宙戦艦ヤマト』(昭和49年)、『時の過ぎゆくままに』(昭和50年)、『津軽海峡・冬景色』(昭和51年)、ジャンルの広さだけで圧倒されます。

阿久悠 Ⓒ文藝春秋

 僕は「ザ・ベストテン」(TBS系)の構成作家をやっていた20代のころ、「スタジオのセットの打ち合わせがあっという間に終わる歌はヒットする」という法則を学びました。世界観がはっきりしていて、歌詞が視覚的だからです。それらはみな、阿久悠さんの書いた歌でした。あたかも3分間の映画の脚本のように、詞が作られているんです。同時に「阿久さんはすごいな。たとえるなら、中華もフレンチも和食も作れて、どの料理も美味しい料理人だ」と思っていました。しかし自分も料理を作る立場になってみると、「この味を出すには、かなり手間をかけて出汁を取らなきゃいけないはずだ」とか、「旬の食材をこんな斬新な味つけにしたのか」と気づきます。

 作詞は、登山にも似ています。ラブソングなら「あなたが好きです」というメッセージが頂上で、作詞家に求められるのは、そこまで登るルート探しです。「そんな、誰も登ったことのない断崖絶壁から来たんですか」と驚かされるのが、阿久さんの詞なんです。作詞へかける情熱と取り組みは哲学者のようであり、時代に切り込む侍でもありました。

 阿久さんは「スター誕生!」(日本テレビ系)というオーディション番組を企画して新人歌手を発掘し、プロデュースも手掛けました。比べるなんておこがましいのですが、僕のずっと先を歩いた方です。やっている仕事が近いから、余計に遠さがわかります。

秋元康氏 Ⓒ文藝春秋

 ご本人とは、パーティーで何回かご挨拶した程度です。ニコッとしてくださるんだけど眼光が鋭く、こちらが勝手に、ヘビに睨まれたカエルみたいになりました。雲の上の方だったので、ゆっくりお話しする機会がなかったのは残念です。お訊きしたいことが、いっぱいありましたから。たとえば僕が一番好きな阿久さんの詞は、河島英五さんが歌った『時代おくれ』(昭和61年)です。

「目立たぬように はしゃがぬように 似合わぬことは無理をせず 人の心を見つめつづける 時代おくれの男になりたい」(曲:森田公一)

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source : 文藝春秋 2025年1月号

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