芥川賞作家で詩人の三木卓(1935〜2023)は、アーノルド・ローベルの絵本「がまくんとかえるくん」シリーズの翻訳を手掛けるなど、旺盛な創作活動で知られた。伊豆文学賞の審査員をともに務めた作家の嵐山光三郎氏が“若手作家戦国時代”の思い出を振り返る。
三木卓は1935(昭和10)年に生まれ、2歳から満州で育った。父武夫は満洲日日新聞の記者だった。1945年、広島と長崎に原爆が投下され、日本は無条件降伏した。父は発疹チフスに感染して亡くなり、兄とともに街頭でタバコを売って働き、引揚列車に乗って帰国した。
1951年、県立静岡高校に、55年(19歳)、早稲田大学露文に入学した。露文の3年上級生に五木寛之がいた。五木氏も、小学校教諭をしていた両親にしたがって朝鮮にわたり、敗戦のとき(中学1年)決死的に三十八度線をこえて福岡に引き揚げた。命カラガラ死線をさまよった人は強い。
三木氏は早大卒業後、日本読書新聞に勤め、66年に河出書房新社に入社して『世界文学全集』の編集を担当した。
三木氏はその10年前、一橋大学の奥にあるあばらやに住んでいて、住所は国立町東である。私も国立市東の住人で、そのころはガスも水道もない。水はポンプで汲みあげた。
新宿ゴールデン街の飲み屋で三木氏と会ったのはそのころだった。雑誌「太陽」の編集部にいた私は、三木氏より6歳若い。ゴールデン街のバーは、ママがひとりで経営していて、映画関係(若松孝二)、漫画関係(滝田ゆう)、ルポ関係(竹中労)、SF関係(夢枕獏)など細い路地沿いに50軒くらいあった。
やたらと気の強いママがいる「まえだ」へ行くと、カウンターに野坂昭如、田中小実昌、唐十郎、中上健次らにまじって三木卓がいた。
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