いじめ問題が大きな社会問題になっている今、話題となっている文章があります。現在、電子書籍として好評発売中の『藝人春秋』(水道橋博士・著)に収められている章のひとつ、「爆笑問題といじめ問題」です。
以下は著者・水道橋博士からのメッセージです。
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朝日新聞から朝刊で連載している『いじめられている君へ』に執筆依頼があった。
大津のいじめ事件以降、各界の識者が、この稿に言葉を寄せている。
しばし考えたが結果的には、断った。
とは言え、この要請に「断る」のも些か引っかかる。
僕が『藝人春秋』に書いた『爆笑問題といじめ問題』という章は、「いじめられている君へ」まさに、そのテーマで2006年に記している。
今は単行本化の作業をしているのだが、しかし、この章は無料公開することにした。
「爆笑問題といじめ問題」全文公開(電子書籍『藝人春秋』第6回より)
2006年、年末──。
テレビでは朝から晩まで『いじめ問題』に大騒ぎしている。
この社会現象に多くの識者からの発言が続き、皆、襟を正して、子供たちに「死んではいけない!」と声を揃えて呼びかけるわけだが、その言葉は真摯で偽りの無いものだと思う。
そして、この問題に関して、芸人のボクですら意見を求められる。
そんな時、テレビのコメンテーターという立場上、いっぱしの正論が口をつくことがある。
短いコメントしかできないから仕方がないのだけれど、しかし自分で話していても、自分の過去を振り返ってみても、なんとも違和感が残るのだ。
そこで今回は、テレビでは言えそうにない単純ではない話を、だらだらと思うがままに書いてみたい。
文部科学大臣からのメッセージ
自殺予告の手紙が文部科学省の大臣宛に送られるほど、子供の自殺の連鎖は続き、その異常事態に、伊吹大臣が記者会見を開き、『文部科学大臣からのお願い』と題するメッセージを読み上げた。
未来のある君たちへ
弱いたちばの友だちや同級生をいじめるのは、はずかしいこと。
仲間といっしょに友だちをいじめるのは、ひきょうなこと。
君たちもいじめられるたちばになることもあるんだよ。後になって、なぜあんなはずかしいことをしたのだろう、ばかだったなあと思うより、今、やっているいじめをすぐにやめよう。
いじめられて苦しんでいる君は、けっして一人ぼっちじゃないんだよ。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、きょうだい、学校の先生、学校や近所の友達、だれにでもいいから、はずかしがらず、一人でくるしまず、いじめられていることを話すゆうきをもとう。話せば楽になるからね。きっとみんなが助けてくれる。
平成十八年十一月十七日
文部科学大臣 伊吹 文明
本来、教育の最高責任者による、最も心に届くべきメッセージであるべきはずなのに、この文章の言霊の無さは、何だろう?
伊吹大臣には申し訳ないが、この報道を見ながら、もし自分が自殺を考えているような子供であっても、決して、この言葉に耳を傾けることはないだろうと思った。
なにしろ、最も権威と威厳を持って語るべき文部科学大臣の存在が、子供たちにとって敬意を持てる対象でもなければ、当然、親近感すらない。
誰からも、しょせん首の挿げ替えが可能な、ただのお飾りの人形にしか見えていないであろうし、何より、この人が自分の人生を晒し、心から自前の言葉で語っているとは、とても思えないだろう。
そもそも、「友だち」と表記したり、「友達」と表記したり、いったい誰が書いた言葉なのだろうか?
それでも、このお笑い草の記者会見を笑い飛ばすことも出来ないほど事態は深刻であり、もちろん笑い事ではないのだ。
どころか、いじめ問題の発言が、今、お笑い界にも波紋を広げているのだ。