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東大が中国勢より下位に…上海の研究者が見た、大学ランキング・日本「一人負け」の原因

中国の参考にできるところは参考に

2020/09/18
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 では、「選択と集中」の結果、少なくとも質は伸びたのかというと、さきほどの引用回数上位論文の国別ランキングにもあるように「質」も伸びているとは言い難い状況だ。つまり、「選択と集中」政策の根幹である「当たりそうな馬券だけバンバン買おう!」という考え自体がまさに「ハズレ馬券」であったといえるのではないかと思う。

上海で見た、中国の「大学院生支援」の手厚さ

 さて、このような状況を踏まえ、「運営交付金を以前の水準に戻すこと」をまず提言したい。それに加え、「選択と集中」とは逆の方策、つまり先に述べたような「研究の裾野」を広げるための方策がさらに必要だと考える。

 中国の大学が最近大きく伸びていることから「すごい額の給料や研究費をもらっているのでしょう」と日本の人から言われることが多いが、残念ながら(?)今のところそういう状況には、私も私の同僚たちもなってはいない。巷のそういったバブリーな印象論ではなく、それよりも私がこの5年間見聞きした「中国にお金がそれほどない頃から地道に続けている、研究の裾野を拡大するための方策」を紹介したい。

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 まず第一に必要なのは「大学院生への経済支援」だ。私が所属する復旦大学生命科学学院を含め、中国における多くの大学院で、「大学院生への給与支給」「授業料の(実質)無料化」「格安の学生寮」の提供が実現されている。

 具体的には、私の学院の博士課程院生の場合、授業料相当額の経済支援に加え、だいたい毎月約6-7万円が追加支給される。月6-7万円というと日本の感覚だと少なく聞こえるかもしれないが、学生寮の家賃はわずか年1万円程度で、大学食堂が一食あたり100-200円程度だから、アルバイトや実家からの仕送りの必要なく生活可能だ。

©iStock.com

 こういった支援により、博士のタマゴである学生さんたちが経済的な心配なく大学院に進学できるというのは、「研究の裾野」を広げる上で非常に重要な要素だと思う。実際、日本では博士課程進学者の減少が続いているが、中国で「博士課程に学生さんがなかなかこない」という話を聞いたことがない。日本においても大学院生、特に博士課程の学生が原則的に何らかの経済支援を受けられるような枠組みの整備が望ましいと考えている。