Z世代のカリスマであるビリー・アイリッシュが、全米が注目する音楽イベントに、『美少女戦士 セーラームーン』の月野うさぎが大きくプリントされたオリジナルの服を着て現れたのは、もう数年前のことだ。

 テイラー・ヒルはじめ、セーラームーンのコスプレ姿を海外セレブがSNSにアップすることは珍しくないし、フィギュアスケートのメドベージェワがエキシビジョンで「ムーンライト伝説」と日本語のセリフが流れる中、セーラー服を脱ぎ捨ててセーラー戦士のコスプレに変身するショーを演じたのもよく知られている。

「月に代わって、お仕置きよ!」セーラームーンの名台詞、三石琴乃の声が流れる中、アイスリンクの上でポーズを決めるメドベージェワの映像を見ていると、少なからず不思議な気持ちになる。フェミニズムの理想が強く投影されたアメリカ映画のヒロインが多く存在する21世紀に、海外の女性たちに日本アニメの『セーラームーン』がここまで支持されるとは、31年前の放送開始前には予想できなかったからだ。

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「5人の女の子がミニスカートを着て戦うなんて…」

 放送開始前、セーラームーンがどう見られていたかを物語る1つのエピソードがある。

 コミック『死ぬかと思ったH 無修正』の中に、漫画家の田中圭一が大手玩具メーカーの社員時代の思い出として、セーラームーンのスポンサー企画を持ち込まれた企画部長が「これはダメ! セーラー服にミニスカート…こんなのをよろこぶのはアニメオタクの男性だけだ! 小学生の女児にうけるアニメしかウチはやらないよ」と断る様子が描かれている。漫画の中では「あのセー○ームー○」と伏字になってはいるものの、放送前にどう見られていたかを物語る逸話だ。

 スポンサーや玩具メーカーだけではない。『アニメージュ』1993年5月号の鼎談では、セーラームーンのスタッフである佐藤順一と幾原邦彦を前に、庵野秀明が「『セーラームーン』はいいッスよ。グーです。放映が始まる前に、5人の女の子がミニスカートのセーラー服を着て戦うという話だと聞いた時には、『なんて、あざとい商品なんだろう』と思ったんですけど」と語り、演出を務めた幾原邦彦が「ぼくも、企画を最初に聞いた時には『冗談だろう!』と思いましたよ。セーラー服を着た美少女が美少年軍団と戦うなんて、それじゃあキャバクラじゃないかと思って」と答えている。