昭和32(1957)年に発表した『弦楽のためのレクイエム』で高い評価を得た作曲家の武満徹(たけみつとおる)(1930―1996)は、和楽器とオーケストラによる『ノヴェンバー・ステップス』で世界的名声を確立した。親交のあった演出家・文筆家の吉田直哉(よしだなおや)氏が綴る。
のちに「世界の」と形容されることになる武満徹にはじめて会いに行ったのは、1954年、昭和29年の晩秋だから、彼が24歳、私は23歳のときだった。
作曲を依頼に行った、といい切ってしまうと正確ではない。正確には早坂文雄さんのところにお願いに行ったら重い御病気で、
「君は若いんだから、ぼくなんかじゃなく若い人といっしょに仕事しなさい」
と、タケミツという新進を紹介してくださったから、とにかく会ってみよう、ぐらいの気もちだったのである。私はNHKに入局2年目の新人で、放送開始30周年記念番組として提案した『音の四季』という企画が通ったので、勇んで準備をはじめたところだった。しかし、まず作曲依頼でつまずいたのだ。
いま思えば早坂さんは、死の床で武満徹の名を教えてくださったのだが、当方には提案が「作曲・早坂文雄」だから通ったという事情があり、勝手にそんな無名の新人に変更するわけにはいかない。若い者同士で、とすすめられたが、若いからこそちゃんとした人と組まないと、周囲が許さないということもあるのだ、と落胆困惑の極にあった。
さて、御本人である。こんなに悲しげにあらわれる人はみたことがない、と思った。何ともはかなく、頼りない。それなのに、ことばを交わすや否や、私の企画を根底から揺さぶるような鋭い発言を繰り出しはじめるのだ。
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source : 文藝春秋 2002年2月号

