磯田道史「無駄を省き、形式を捨て速度と効率を重んじたとき、日本の組織は勃興するのです」――編集部員が選ぶ“2025年の名言”

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2025年に「文藝春秋PLUS」に掲載された記事の中から、編集部員がとくに心を掴まれた「イチ押しの言葉」を紹介します。今回は、編集部員が“思わず圧倒された言葉”を集めました。

磯田道史「無駄を省き、形式を捨て速度と効率を重んじたとき、日本の組織は勃興するのです」

(2025年12月号、「ポスト信長は土木・情報・スピードが決めた」〈秀吉と秀長〉)

 

2026年の大河ドラマは『秀吉兄弟』。そこで歴史学者の磯田道史さんに天下を制した、この兄弟の何がすごかったのかを探る連載をお願いしました。第3回最大のテーマは、秀吉の「中国大返し」。磯田さんは秀吉兄弟が「戦国最速」であったことにその強さの理由を見出し、引用した名言に至ります。磯田さんは「日本の組織が古くなると形式主義・完璧主義・責任回避主義が始まります」とも指摘します。
早速、自分がしてきた仕事のことを考えてみました。速さだけを追い求めると、仕事の完成度が低くなるのではないかと思ったのですが、振り返ってみると、さにあらず。即断即決で期日に追いかけられてやった仕事は、無駄な部分をそぎ落とすことができ、その仕事に求められる本質を追求できた記憶が色々と甦ってきました。しかも、仕事を他に先んじて進めていると、失敗したとしても、それをリカバーする時間ができていたりします。しかし、聞くところによると、弊社では最近、会議が増えているそうです。これはマズい。磯田さんの連載を新書にまとめた『豊臣兄弟 天下を獲った処世術』を片手に、スピード教を布教していきたいと思っています。(編集部・波多野)

エマニュエル・トッド「イスラエルの目的の一つは、ガザとヨルダン川西岸地域を一気に、暴力的に、そして完全に空っぽにすることだと言えます」

(2025年2月号、「イスラエルは神を信じていない」)

 

2023年10月7日のハマスの攻撃(死者約1200人、人質251人)に、イスラエルはジェノサイドで応じ、ガザの死者は7万人を超えています。2024年10~11月時点のトッド氏の発言ですが(ガザ市制圧の本格的地上作戦の開始は2025年9月)、当時、この虐殺がさらに1年以上も続き、ガザ全体が本当に「空っぽ」になることまで想像できた人はいなかったと思われます。私自身もトッド氏の言葉にそこまでのリアリティは感じられませんでした(だからこそ記憶に残ったのですが)。〈戦略的意味はなく、自己目的化した「殺人欲求」を感じます〉――トッド氏の絶望の深さとともに、こうした「感受性の鋭さ」が数々の“予言”を可能にしたのだ、と実感しました。(編集部・西)

上野千鶴子「私は成田さんのご指名を受けてここにまいりましたが、ご指名の理由は何でしょうか」

(2025年5月3日配信 「成田悠輔の聞かれちゃいけない話 第3回 26000字ノーカット完全版 前編」)

 

とにかく緊張感のある対談でした。当時まだ始まったばかりだった成田悠輔さんの対談連載「聞かれちゃいけない話」にゲストとして登場していただいたのが上野千鶴子さん。序盤からスポーツ実況で言うなら“お互い一歩も譲らない展開”。上野さんから、成田さんの発言に対して「それは分かります」と共感の言葉が出たのは、対談が始まって1時間くらい経過した頃だったでしょうか。同席しただけでもフラフラになった対談の様子は「文藝春秋PLUS」のノーカット版で。紙幅を気にすることなく、この対談の空気を忠実に再現できる電子版があってよかったと思わせてくれる対談でもありました。(編集部・三阪)

日枝久「一言で言うと、僕はアンタッチャブルです」

(2025年9月号、森功「日枝久・フジサンケイグループ前代表 独占告白10時間」)

 

中居正広氏による性暴力事件が報じられて以降、メディアの取材に初めて応じた日枝氏が「事件のことは知らず、私は無関係」というニュアンスで発した一言。ただ、日枝氏は「フジテレビの天皇」とも呼ばれた絶対的権力者。「私はフジの聖域である」と自ら認めたようにも聞こえ、迫力満点の“日枝節”に圧倒されました。(編集部・大澤)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

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