「文藝春秋」の編集者が明かす、電子版限定の“ここだけの話”
「できれば明日には原稿が欲しいかなー。よろしく!」
担当デスクから軽いノリで示された締め切り日。読者の皆さんは「すでに原稿の大半は書いていて、あとは推敲して完成させるだけ」とお思いかもしれません。ところが私は、その時点でただの一文字も書いていなかったのです。書きぶりに関するデスクからのオーダーをメモしながら、私は軽く絶望していました。
今回私が担当したのは、小説家の真山仁さんと、睡眠学者の柳沢正史さんの対談原稿です。柳沢さんは9月にラスカー賞を受賞したことも記憶に新しいですが、真山さんはそんな柳沢さんに「きちんと睡眠時間を確保しないことにどれだけのリスクがあるのか」「日本人はどれだけ寝ていないのか」といった睡眠にまつわる最新の研究を徹底取材。その成果をまとめた『柳沢正史の快眠脳』(文春新書)が10月16日に発売されます。そこで、刊行に先立ち、月刊「文藝春秋」で取材の“延長戦”として誌面対談してもらうことになったのです。

対談のテーマは「日本復活のカギは睡眠にあり!」。某栄養ドリンクのCMがバブル期の末期で打ち出した「24時間、戦えますか」のキャッチコピーなどが示すように、日本人はある時期から睡眠時間を削って仕事をするのが“美徳”と捉えるようになりました。令和の今もそんな美徳は根強く支持されているのか、高市早苗首相も7月には自身のXで「0時間~3時間睡眠が常態化」しているなどとポスト。これはいわゆる「寝ていない自慢」なのでは、ということで、SNSで賛否を呼んでいました。
真山さんと柳沢さんはそんな美徳を一刀両断。寝ないことでどれだけ健康を害するのか、具体的なエビデンスを交えて熱く対談してくださいました。真山さんご自身も、柳沢さんからの指摘で睡眠時無呼吸症候群であることが発覚し、現在もCPAPを用いて治療中とのこと。真山さんの実体験に即した睡眠の効果は非常に説得力があり、私も対談時には何度も頷いていました。

しかしーー場面は冒頭に戻ります。お二人から約2時間にわたり、いかに睡眠が重要かを説かれた私は、今すぐにでも布団に入りたい気分。そこに「原稿は明日まで」の指令がきたわけです。遅筆な私は、締め切り直前に徹夜することもしばしばありましたが、今回は「睡眠は質より量」という柳沢さんの金言を聞いた直後。そして何より、「睡眠が大事という原稿を書くのに徹夜する」矛盾した働き方はどうしても避けたかった。
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