いつもご愛読いただき、誠にありがとうございます。
2月特大号は、偶然ですがNHKにまつわる記事が揃いました。磯田道史さんの「わが徳川家康論(3)」は大河ドラマ主人公の興味深い逸話を明かす好評連載の第3弾。今回は最強の敵、武田信玄との戦いを通じて、いかに家康が成長したかに迫ります。
〈信玄とのハイレベルの戦いは徳川軍の切磋琢磨に十分でした。家康はこのあと天正期に、物見の改良に始まり、軍団間での情報共有、効率のいい指揮命令系統、軍団の編成、築城術などを改善していきました。〉
ちなみに「どうする家康」の脚本を担当する古沢良太さんも有働由美子さんの対談連載に登場しています。
私も毎回欠かさず見ている「映像の世紀バタフライエフェクト」。第70回菊池寛賞を受賞しましたが、プロデューサー寺園慎一さんの制作秘話が抜群に面白い。
寺園さんはこの番組が目指すものをこう記しています。
〈歴史上のひとりの人間の真摯な仕事が、遠いところでどんな渦巻を作ってきたのか。誰かが振り絞った勇気、あるいは犯してしまった罪が巡り巡って、積もり積もって、大きな出来事につながっていく歴史のダイナミズム。〉
ドイツのメルケル前首相とパンクロック歌手ニナ・ハーゲンや、スティーブ・ジョブズと科学者バックミンスター・フラーなど、数奇なめぐり合わせに引き込まれましたが、寺園さんによれば、この企画を思いつくきっかけとなったのが、2001年に起きた韓国人留学生が電車にはねられて死亡した事故でした。「危機の中の勇気」というタイトルで1月16日に放送されたのでご覧になった方もいらっしゃると思います。
さらに1月10日から始まったドラマ「大奥」の原作者、よしながふみさんのインタビューも掲載していますが、いささか番宣めいてきたのでこのくらいにして、最後に私とNHKとの因縁について書きます。
NHKといえば日本最強の報道機関であり、きら星のごとく優秀な人材が集まっています。「週刊文春」の駆け出し記者だった私はNHKのエース記者といわれる方々に食い込んでネタのおこぼれをもらおうと必死でした。例えば今月号の「目覚めよ!日本 101の提言」で、「スクープは癒着から生まれる」(胸のすく内容でした!)を執筆いただいた小俣一平さん。かつては飛ぶ鳥を落とす勢いの社会部のドンで、名前を憶えてもらうのにも苦労しました。
その後、ひたすらスクープ路線を追い求めた私は「週刊文春」のデスク時代、中村竜太郎記者と紅白プロデューサー横領事件をスッパ抜き、海老沢勝二会長(当時)の辞任に至ります。その際の小俣さんの一言、「新谷君のせいで出世し損なったよ」は忘れられません。
私のモットーである「親しき仲にもスキャンダル」の原点ともいえる体験でした。
実際、昨年も「前田会長よ、NHKを壊すな」(6月号)、「NHKからコンサルへ『疑惑の受信料49億円』」(12月号)を掲載しているわけですから、受信料に支えられている公共放送には、今後も是々非々で臨むということに尽きます。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル