生涯の仕事として防衛・安全保障を選んだのは、小中学生の頃に戦中派の両親に薦められて読んだ2冊の本の影響だったように思います。1冊目は、小学生の頃に読んだ少年少女向けノンフィクションシリーズの中の『ぼくの村は戦場だった』(アリョーシ等著、偕成社)です。同名の映画もありますが、私が読んだのは独ソ戦の悲惨さをソ連やポーランドの子どもたちの眼から描いた手記を集めたものでした。母親を殺された子どもの手記を読んだ時には、自分がこんな目に遭ったらどんな気持ちになるだろうと思って涙が出ました。現在、ロシアは独ソ戦になぞらえてウクライナを侵略していますが、破壊されたウクライナの街並みをテレビで観る度にこの本に載っていた子どもたちの手記を思い出し、やり切れない気持ちになります。
太平洋戦争中、私の母は浅草に住んでいました。「朝、学校へ行く道で、昨日までそこにあった民家が爆撃でなくなっていることが珍しくなかった」といった話をよく聞かされたものです。そんな母から中学生の時に薦められたのが、『東京大空襲』(早乙女勝元著、岩波新書)でした。昭和20年3月10日未明の東京大空襲の模様を記録したもので、母は実際にこの空襲に遭い、九死に一生を得ていました。母の話も重なり、ごく普通の人々の平穏な日常が一瞬で永遠に失われるという戦争の理不尽さについて、中学生なりに深く考えさせられました。
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source : 文藝春秋 2023年5月号