沼田高校の鐘

絲山 秋子 作家
ライフ 音楽 教育

 孫、曾孫(ひまご)、玄孫(やしゃご)。その先は来孫(らいそん)、昆孫(こんそん)、仍孫(じょうそん)、雲孫(うんそん)と続くそうだ。

 仮に、現在50歳の人を基準に25歳で子供が誕生する家系を考えると、75歳で曾孫が、100歳で玄孫が生まれることになる。100年後には昆孫、150年後には雲孫が誕生する。気が遠くなってしまうが、誰もが誰かの仍孫であり雲孫なのである。こんなことを考えたのは、群馬県立沼田高校から新しい校歌の作詞を依頼されたからだった。

 校歌というものは寿命が長い。沼高(ぬまこう)こと沼田高校は1897年創立で、校歌にも100年の歴史がある。新しい校歌も、在校生の子孫たちが歌うことになるかもしれない、と思ったのだ。

 群馬県の公立高校には男女別学が多い。沼高も男子校である。少子化の影響で生徒数が減少し、2年後には沼女(ぬまじょ)こと沼田女子高校と統合することが決まった。沼田城址のすぐ隣にある沼女も1921年創立の伝統校である。新高校の校歌を新しく作ることになり、それで私にお声がけがあった。

 しかし私には経験も実績もない。ほんとうに私なんかでいいんですか、と思った。とにかく会ってお話を聞きたいと思い、学校を訪問したのは6月下旬のことだった。

 沼田市は群馬県北部、利根沼田地域の中心地である。高崎からは渋川を経て国道17号を北上し、利根川を渡って坂を登ったところに市街地がある。ここは日本一美しい河岸段丘とも言われている。尾瀬や日光へと通じる国道120号線を東へ進めば「沼高通り」となる。

沼田の河岸段丘 ©時事通信社

 1928年に竣工した鉄筋コンクリート造の立派な校舎は、国の登録有形文化財の指定を受けている。アールデコ調の意匠が施された玄関ホールや正面階段の雰囲気も重厚で美しい。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年10月号

genre : ライフ 音楽 教育