令和の薩長連合

日本人へ 第247回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会 働き方 歴史
 

 先月号の私の小文には早くも反応があったのだが、それがクエッション・マーク的な反応。だが、もしかしたらこの反応のほうが今の日本では多数意見かもしれないと思うので、紹介する。

 ――「正社員と非正規社員の差を取っ払うべき」という考えには、ボクも基本的には賛成です。正規であろうと非正規であろうと社員は、あくまでも、その人の能力とあげた成果で評価され遇せられるべきと考えているからです。同一労働同一賃金も、理論的にはまったく正しいのだし。そう考える日本の企業の役員も、ほんとうのところは多いのではないかとさえ思います。

 しかし、この考えに抵抗するのはかえって、中間管理職以下の正社員たちではないでしょうか。「正規も非正規も全員を正社員にする」というのならまだしも、「正社員も非正規社員も全員を契約社員にする」という考えには、たとえそれが「五年間の保証期間」つきであろうと、相当な抵抗が起ることが想像されます。

 なぜなら、今の日本の正社員にとって契約社員になるということは、「格下げ」を意味するからです。

 まさに塩野さんが指摘される「既得権を奪われた正規社員の反抗」が起るのは必至でしょう。だからこそ現在の閉塞状態を脱するには、明治維新当時にはあった、「やっちゃおうぜ!」という感じの蛮勇が必要だと主張されているのだと思いますが、日本の現実を見ると悲観的にならざるをえません。

 しかし、今の状態を変えずにこのままで今後も行くとなると、日本は亡国への坂を滑り落ちていくしかないのか、と――

 私はこれまでに、人間に例えれば誕生から死まで、歴史では「通史」と言うが、その通史を、古代のローマ帝国と中世・ルネサンスのヴェネツィア共和国で二度とりあげた。なぜこの二国だけが、経済的な繁栄と政治上の独立と精神面での自由を一千年もの長きにわたって自国民に保障できたのかを知りたかったからである。二作とも発表した今ならわかるのだが、簡単に言ってしまえば次の二事につきる。

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source : 文藝春秋 2024年4月号

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