各界で活躍する”達人”たちが、人生を変えた「座右の書」を紹介する新連載。達人たちはどのような本を読み、どのような影響を受けてきたのか、その半生とともに振り返る――。第3回は、元北海道日本ハムファイターズ監督でWBC日本代表を優勝に導いた栗山英樹さんが登場。
（取材・構成 稲泉連）
栗山英樹（くりやま・ひでき）
1961年生まれ。東京都出身。創価高校、東京学芸大学を経て、84年にヤクルト・スワローズに入団。89年にはゴールデングラブ賞を獲得するなど活躍したが、1990年に引退。引退後は野球解説者、スポーツジャーナリストに転身した。2011年11月、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。翌年、監督1年目でパ・リーグ制覇。16年には2度目のリーグ制覇、そして日本一に導いた。21年まで日ハムの監督を10年務めた後、22年から日本代表監督に就任。2023年3月のWBCでは、日本代表を世界一に導いた。
小説『氷点』が強烈な印象を残した
僕が「本」というものを真剣に読み始めたのは、プロ野球の現役を29歳で引退した後のことです。それまで人生の全てを賭けて続けてきた野球をやめ、様々な選択肢が自分の目の前に見えるようになった。そのなかで、野球のジャーナリストやテレビのコメンテーターのような仕事もしましたが、「自分はこのままでいいのだろうか」という漠然とした心の迷いを抱くようになった。自分が人間として成熟しているという実感がなく、どうしたらいいのか、という限界を感じるようになっていったんですね。
実は子供の頃から本は好きでした。家は決して裕福ではありませんでしたが、親が読書家で自宅の書棚には本がたくさんありました。そして、両親は本だけは、たとえ漫画であっても自由に買ってくれたので、当時、少年だった僕は野球漫画やべーブ・ルース、王貞治さんの子供向けの伝記などを、ずいぶんと熱中して読んだものでした。
プロ野球選手という夢を追っている10代から20代のはじめの時期は、野球をしながら勉強もしなければならなかったので、本を集中して読む時間がなかなかありませんでした。ただ、大学生の時にはチームのキャッチャーだった男が読書を趣味にしており、その影響で本を読んでいたこともあります。もっぱら手に取ったのは小説。例えば、その頃に読んだ三浦綾子先生の『氷点』などは、今でも強烈な印象が胸に残っています。
さて、40歳前後で人生に迷いを感じたとき、新聞で有名な企業の経営者の方々が「座右の書」を挙げている記事を読みました。そのなかでふと手に取ってみたのが、複数の人が紹介していた渋沢栄一の『論語と算盤』でした。
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