ノースカロライナ州に生まれ、札幌市で育った道産子の私が、ニューヨークの日米交流団体「ジャパン・ソサエティー」の理事長に史上最年少で就任したのは、2019年12月のことです。当時の私は38歳でした。
ジャパン・ソサエティーは1907年に創立されました。初代理事長はニューヨーク市立大学のジョン・フィンレイ総長で、名誉理事長には青木周蔵駐米大使が就きました。当時は日本に関する情報が少なく、西海岸で日本人移民の排斥運動も起こっていた頃。そんな中、映画上映、講演、会議など様々なイベントを通して両国の友好的な交流を推進し続け、今年で117年を迎えました。
私が理事長に選ばれた理由の一つは日本との関係の深さでしょう。両親が札幌の教会で宣教師を務めることになり、移住したのは2歳の頃。北海道インターナショナルスクールに通い、18歳まで札幌暮らしでした。高校時代はバスケットに熱中し、冬に札幌国際スキー場でスノボをした後、定山渓温泉に入ったのはいい思い出。日本語はペラペラで、両国の懸け橋になり得ると見込まれたのだと思います。
もう一つの理由は、若いながらも経験が豊富だったことでしょうか。アメリカに戻ってからは、イェール大学大学院で修士号を、プリンストン大学大学院で帝国主義下の日本に関する研究により政治学の博士号を取りました。以来、国務省や国防総省など政府の機関に勤務し、2017年にカザフスタンで行われたアスタナ国際博覧会ではアメリカのパビリオンを運営する仕事をしていました。そして地政学的リスクの分析を専門とするコンサル会社で、グローバル戦略事業部長兼日本部長を務めていたところ、「次の理事長に」と声を掛けられたのです。
就任してすぐ、新型コロナのパンデミックに見舞われ、マンハッタンの本部「ジャパン・ハウス」も一時、閉めざるを得ませんでした。これは第二次世界大戦以来のこと。もちろん今は再開し、対面でのイベントも開催しています。23年9月には日本政府と「G7保健フォローアップ・サイドイベント」を共催しました。岸田文雄首相が開会の挨拶をし、ビル・ゲイツ氏やテドロスWHO事務局長など各界のリーダーが参加して下さいました。この6月にニューヨークのホテルで開催したアニュアル・ディナーには650人以上が集まりました。司会はブロードウェイ俳優の由水(ゆうすい)南さん。ラピダスの小池淳義社長とIBMのアービンド・クリシュナCEOが行った、半導体技術の戦略的パートナーシップに関する講演も素晴らしかったです。
私達の使命は両国の人と人を繋ぎ、精神的な“絆”を作り出すことです。今は特に日本での活動を積極的に行うことを心掛けています。経団連の方々との交流、本部ビルを設計した建築家・吉村順三氏の展覧会の後援、会員向けビジネスセミナーの開催など、数えればきりがありません。
フロンティアスピリットに溢れた北海道で育ったことを私は幸運だったと思っています。外見から「自分は日本人ではなく外国人なんだ」と疎外感を抱いたこともありましたが、北海道の人々は、温かく受け入れてくれました。いまは“道産子系アメリカ人”であることを、誇りに思っています。
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