薩摩閥のなかの西郷従道

小川原 正道 慶應義塾大学教授

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「薩長藩閥政府」を構築し、明治日本の政権運営を担った人物のうち、薩摩出身の大久保利通、西郷隆盛、長州出身の木戸孝允が「維新の三傑」、長州の伊藤博文、井上馨、山県有朋、山田顕義、薩摩の大山巌、黒田清隆、西郷従道、松方正義が「元勲級指導者」と呼ばれる。

 三傑は、1877年(明治10年)とその翌年に没した。後者の8名が政権の中枢を占め、1885年の内閣制度発足から初の政党内閣である第一次大隈内閣が発足する1898年まで、その誰かが首相となり、薩長が交代で内閣を率いた。

 このうち、研究が進んでいるのは三傑と伊藤、井上、山県、山田で、薩摩閥の元勲級指導者は、財政家としての松方を除くと、まとまった評伝すら少ない。

 そうしたなか、本年8月に筆者が世に問うたのが、『西郷従道―維新革命を追求した最強の「弟」』(中公新書)である。従道を取り上げたのは、2007年に『西南戦争―西郷隆盛と日本最後の内戦』(中公新書)を書き、反乱軍の首魁となった兄・隆盛と対峙した、従道の複雑な心境に触れたためである。兄弟関係を軸にその生涯を描くことで、「伊藤博文中心史観」とも言うべき現状に一石を投じてみたいと考えた。

『西郷従道―維新革命を追求した最強の「弟」』(中公新書)

 従道は自宅の蔵が空襲で焼けており、『伊藤博文関係文書』のような整理された資料が刊行されておらず、各地に分散している書簡や書類を集めるほかない。

 そこで、国立国会図書館憲政資料室や鹿児島県歴史・美術センター黎明館などが所蔵する従道書簡を読んでいくと、相手によって、書体や内容に相違が見られることに気がついた。

 従道は「政治は伊藤だ」と言って伊藤を信頼し、これを支えた。伊藤に宛てた書簡は書体が丁寧で美しく、肩書きも添えられることが多いが、内容は事務的である。一方、薩摩閥の人物に対しては、書体を崩し、内容も真情を吐露したものが目立つ。

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source : 文藝春秋 2024年11月号

genre : ライフ 読書 歴史