文士たちの大一番

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 始まりは、先輩作家の葉室麟さんのお墓参りだった。澤田瞳子さんと九州に赴いて東山彰良さんと合流し、そこに髙樹のぶ子さんも来てくださった。お墓の前で献盃し、場所を移してお茶を飲んでいた。そこでふと、「文士劇したいなあ」と口にすると、髙樹さんが「昔は盛んだったわね」とおっしゃった。

 私たちもやりたいね。うん、楽しいに違いない。やろう! で、ほんまに始めてしまったんです。

 取材を受けると必ず経緯を訊かれるので、ありのままに話すのだけれど、相手は微妙な顔つきになる。

 作家が舞台に立つことの意味、意義は奈辺にありや?

 作家は書くことがすべて。書く瞬間の積み重ねこそが作家を作家たらしめている。その信念は私にもある。だから文士劇はある種の逸脱に見えるかもしれない。しかも演劇は裏方も含めて携わる人数が多く、大掛かりになる。大それている。そう、大それた思いつきだった。けれど私たちは本気だった。大阪で集まり、そこに黒川博行さんを招いて相談した。おもろいやんか。即答だった。

 問題は演目だ。素人劇であるので、一般に知られる時代ものの方が役柄がわかりやすく、観客に安心して楽しんでいただける。だが時代ものは衣裳代がかかる。資金の目処はまったくつかない。そもそも資金をどうやって集めたらよいのかさえもわからない。なら、学園ものがいいかも。学生服とセーラー服なら衣裳代がかからないじゃないか。そこで、黒川さんが東野圭吾さんに頼んでくださった。東野さんのデビュー作『放課後』を原作として使わせていただきたいと。快諾してくださった。本当に有難かった。

 こうして作家たちの放課後活動が始まった。出演者は総勢16名。黒川・東山・澤田・朝井の4名で「なにげに文士劇2024実行委員会」を組み、脚本・演出家やプロデューサー、諸方面のプロたちも参集してくれた。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

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