『マダムと女房』『愛染かつら』など、戦前から女優として大人気だった田中絹代(たなかきぬよ)(1909―1977)。戦後は演じるだけではなく、自らメガホンを取ったことも。昭和50(1975)年には『サンダカン八番娼館・望郷』の元からゆきさん役で、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞受賞。『人間の条件』『東京裁判』などで知られる映画監督の小林正樹(こばやしまさき)氏(1916―1996)は従兄弟。
映画監督は、単なる色恋ではなく、芸術的意欲を満足させるため、女優にのめり込みます。のめり込まないと、いい映画は撮れませんからね。
溝口健二監督は絹代さんを素材にして『浪花女』『西鶴一代女』『山椒太夫』などを撮っています。溝口さんと絹代さんは、かつて結婚を噂されたことがあります。
絹代さんの遺品を整理していて、溝口健二さんからの毛筆で書かれた手紙を発見しました。その文面を見て、溝口さんが絹代さんに寄せていた純粋な気持ちを感じました。溝口さんは絹代さんに淡い少年のような恋心を抱いておられたような気がします。

一方、絹代さんも溝口さんには心酔していました。ただ、それは映画の師匠に抱く芸術的なもので、絹代さんは男性的な男が好きでしたから、二人の恋愛関係は溝口さんの片想いだったのかも知れません。
昭和52年の初めに絹代さんが順天堂大学附属医院に入院したとき、俳優の笠智衆さんから電話で知らせがあって、びっくりして飛んでいきました。
それから70日後くらいに絹代さんは亡くなっています。私はほとんど毎日お見舞いに通い、絹代さんは自分の歩んできた人生を洗いざらい語ってくれました。
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source : 文藝春秋 1989年9月号