日本でも2020年、当時の菅義偉首相が2050年までのカーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)を宣言した前後から、脱炭素という言葉を耳にすることも多くなったはずだが、実は、この5年で気候変動を前提にビジネスのルールは大きく書き換えられ始めている。
特に2021年は、米国で気候変動自体を否定していたトランプ前大統領からバイデン大統領へと政権が移ったことで、気候をめぐる世界の議論は加速度を増した。米国は政権が変わるとすぐにパリ協定に復帰し、4月にはバイデン氏主催の気候サミットで、2050年カーボンニュートラルに加え、2030年までの排出量50%減(2005年比)を打ち出すなど、一気に気候変動対策のリーダーへと名乗り出ようとしている。
EUが「国境炭素税」の本格導入へ
脱炭素のインフラ整備を軸とする「米国雇用計画」に5年で100兆円以上をつぎ込み、さらには気候変動対策を盛り込んだ10年約380兆円の予算決議案をぶち上げるなど、怒濤の勢いで巨額の資金を投入し始めたのだ。
一方、EU(欧州連合)は2035年までのガソリン車の新車販売禁止に踏み切ったほか、域外からの炭素含有量の多い輸入品に対する「国境炭素税」の本格導入へと準備を進めている。
極めつけは、2021年9月の国連総会で、中国・習近平主席が、海外での新たな石炭火力発電プロジェクトへの支援を停止すると発表したことだ。中国は世界一のCO2排出大国だが、2060年までのカーボンニュートラルの宣言に続くサプライズ発表で、気候分野では国際社会への歩み寄りを見せている。
11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)開催も含め、2021年は気候変動対策が一つのピークに達した年として記憶されるかもしれない。
日本の生き残る道は?
日本も5月に改正地球温暖化対策推進法が可決されるなど、世界と足並みを揃え始めたが、特に産業分野での大きなシフトには対応しきれていないのが現状だ。日本が強みを持つテクノロジーは、ハイブリッド車や高効率の石炭火力など、化石燃料の「省エネ」に優れるものであり、電気自動車(EV)や再エネなど「排出量ゼロ」を前提に欧州が先導して進めるルールには、そのままでは適合できない。