2020年、無観客ダービーの実況「日本一のビッグレースなのに、あれだけ広い競馬場で各局アナ数人の声しか聞こえない」
——生で馬を見るということでいえば、2020年のダービーは無観客でした。そのときの実況を担当されていますね。
福原 ダービーって、普通であれば10万人を超える大観衆が集まって、朝から競馬場が異様な雰囲気に包まれるんですよね。実況席から見ていると、人がもうびっしりいて、何かが大型ビジョンに映ればワーッと歓声が上がり、スターターが歩き出せばワーッ、ファンファーレが流れれば手拍子、ゲートが開けばまた大歓声。とにかく大歓声なんです。それが、無観客なんですよ。ゼロ。
——実況するときも感覚がそれまでのダービーとはまったく違う。
福原 もちろんです。それまでは喋っているときに自分も歓声に負けないようにという風になっちゃうんです。でも、無観客だとその相手がいない。それが本当に不思議で。普通は歓声でかき消されるはずの馬の足音が聞こえますからね。
日本ダービーなのに、そのとき競馬場で喋っているのは私とラジオNIKKEIやニッポン放送、NHKなどのアナウンサー数人だけ。あのときは馬主さんも入れなかったですから、本当にあれだけ広い競馬場で5、6人しか声を出していない、日本一のビッグレースです。
——最後の直線で観客がワーッと盛り上がって、そこに実況も負けじとトーンが上がって、というのが競馬中継の醍醐味でもあります。
福原 たとえばオグリキャップの引退レースとか、あれがもし観客ゼロだったらどうなったんだろうと思うんですよね。オグリキャップが有馬記念に勝って、武豊騎手がウイニングランをするんですけど、無観客だったら誰のためにウイニングランをするの?という話になるんですよ。人がいないだけで、本当にいろいろなことが違ってしまいますから。
「競馬番組の司会をしていて、1回だけ泣いてしまったことがあるんです」
——実況や競馬中継の司会のお仕事の中で、他になにか印象に残っていることはありますか。
福原 いろいろありすぎて困りますね(笑)。
私がはじめてダービーを喋ったのが、ワグネリアンが勝った2018年。ワグネリアンは皐月賞で1番人気だったのに7着に負けているんですよ。
それでダービーで外枠を引いて。皐月賞と同じように外からポジションを下げていったら、また何の見せ場もなく終わっちゃうんじゃないか。だから好勝負をするためには福永祐一騎手がどう乗るかというのをイメージしたんです。
そしたら、スタートして1コーナーをまわるときにピンクのヘルメットの馬がワーッと5、6番手にいるわけですよ。それがワグネリアンなんですね。これは福永祐一勝負に出たな、と。喋っていて、そのときにある程度ワグネリアンの勝利を想定していましたね。