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 司会席の正面が通訳ブースだったので、ふうふう言いながら通訳している日本人通訳さんが見えました。彼女たちは、あきらかに悲鳴を上げながら、必死で通訳してくれていました。

 と、フランス人の男性通訳が突然、通訳をやめて、「ちょっと待ってよ! しゃべるの早すぎるよ! まだこっちは、訳してるんだから!」とフランス語訛りの日本語で叫んだのです。

 僕はア然としました。生まれて初めて通訳さんに怒られるという経験でした。

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 叫んだ中年男性は、「まったく許せない」という顔をして、こっちを睨んでいました。僕は思わず、「すみません」と謝りました。

 横の日本人の通訳さんたちは、苦笑いしながら、それでもホッとした顔をしていました。それは、「この状態を誰かが止めてくれないかなあ」とずっと思っていたという顔でした。

「無理なものは無理って言うのは、大切だよなあ」

 怒られながら、僕は内心、「そうだよなあ」と思っていました。

「国際紛争を解決する緊迫の通訳じゃないんだから、無理なものは無理って言うのは精神衛生上、大切だよなあ」

 僕たちは真面目なので、放っておくと、余計な所で過剰にガンバリます。

 出張や旅行のたびに、義理でおみやげを買ってくる、なんてのは、間違いなく、「ちゃんとしなくていいこと」のひとつだと僕は思っています。

「時間があいたから、じゃあ、買って帰ろうか」ならまだ分かりますが、現地での時間をかなり無理して、義理みやげ買いに奔走するなんてのは、「息苦しさだけを加速するガンバリ」だと僕は思っているのです。

 でも、一人だけがやめると、周りからなに言われるか分からないでしょう。だから、バレンタインデーの義理チョコみたいに、みんなでやめることを普通にすればいいのです。