技術流出防止か、対日直接投資拡大か
JR埼京線の北与野駅といえば、同線で最も利用者数が少ない駅だ。駅前には実は日本初のタワーマンションがあるのだが、それが意外なほど一帯は閑散としている。そんな地味なエリアにある電子部品メーカーが今、日本と台湾の買収王による争奪戦の的になっている。そして成り行き次第では、技術と安全保障を巡る日本の戦略に一石を投じる可能性をはらんでいる。
買収の標的となっているのは芝浦電子(本社・さいたま市中央区)。サーミスタという温度センサーの専業で、製品はEV(電気自動車)やエアコン、産業ロボットなどに使われている。2024年度の年商は340億円で、上場企業としては小粒だ。だがサーミスタメーカーとしては世界最大手であり、いわゆるグローバルニッチトップ企業である。
この「埼玉の小さなガリバー」に惚れ込んだのが、台湾の電子部品大手・ヤゲオ(国巨)である。
ヤゲオは日本での一般的な知名度は低いが、チップ抵抗器やタンタルコンデンサの世界最大手であり、アップルの常連サプライヤーとして電子部品業界では認知されている。売上高は過去10年で4.4倍に伸び、24年は5835億円に達した。この成長性と、高収益企業として知られる村田製作所にも並ぶ高い利益率が評価され、時価総額は1.18兆円(5月27日の終値ベース)まで伸びた。
かくも力強い企業成長の原動力はまさに、海外企業の買収である。創業者のピエール・チェン(陳泰銘)会長は、台湾では「併購王(M&A王)」として知られている。2000年にオランダ・フィリップスの受動部品事業を買収したのを皮切りに、彼の眼力と決断力の下で、技術と顧客を持つ欧米同業を次々と傘下に収めてきた。特に老舗メーカー、米ケメットの1800億円に上る買収(20年)は、台湾では鴻海精密工業のシャープ買収に続く史上2番目のビッグディールになった。

このヤゲオによる芝浦電子の買収劇が本格化したのは、昨秋のこと。ヤゲオは証券会社を介して少なくとも2度にわたり、「業務提携の可能性を探りたい」と芝浦電子に面談を申し入れた。だが「具体的な提案内容がない」などと断られたため12月末に芝浦電子に対し、全株を取得するなど具体的な買収計画を書面で提案した。さらに今年2月5日には自社の日本語サイトで、芝浦電子へのTOB(株式の公開買付)計画を公表し、同社の株主にアピール。そして5月9日、ついにTOBを開始し、6月19日を当面の期限として買い付けを進めている。
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source : 文藝春秋 2025年7月号