バイト先から学生寮までの夜間の人気のない山道で起きた惨劇

平成21年 島根女子大生バラバラ殺人事件篇 第1回

小野 一光 ノンフィクションライター

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ニュース 社会

日本を震撼させた平成の凶悪事件。事件後に流れた歳月は犯人・遺族の心境にどのような変化をもたらすのか。ノンフィクションライター、小野一光氏が現場を歩く。今回は「平成21年 島根女子大生バラバラ殺人事件篇」の第1回。

 


 

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【平成21年】島根女子大生バラバラ殺人事件篇

 #1 バイト先から学生寮までの夜間の人気のない山道で起きた惨劇 ←今回はこちら

 間もなく深い雪で閉ざされることになる山中で、事件は発覚した。

 2009年11月6日の昼過ぎ、広島県北広島町の臥龍山(標高1223メートル)8合目付近の崖下で、キノコ狩りに訪れていた広島市の男性が、人の頭部を発見する。翌7日未明には、それが現場から直線距離で約25キロメートル離れた、島根県浜田市にある島根県立大学1年の女子学生、Aさんの遺体であることが確認された。

ブナの原生林が広がる臥龍山(2010年5月、筆者撮影)

すぐにAさんと判明

 島根・広島両県警が浜田署に合同捜査本部を設置して、臥龍山を中心に大規模な捜索を行ったところ、同山中で7日から9日にかけて、大腿骨と四肢が切断された胴体、それに左足首が見つかった。続いて19日には、野生動物の糞の中やその近くで、右足の親指の爪1点と、爪と見られる破片4点、約1.5センチメートル大の肉と骨片が発見される。広島県警担当記者は次のように明かす。

「遺体の顔面には皮下出血と筋肉内出血が認められており、生存中に激しく殴打されていました。死因は紐のようなもので首を絞められたことによる窒息で、遺体は死後に切断されていますが、胴体には四肢の切断とは別の刃物で切られた傷がありました」

 Aさんは遺体が発見される11日前の10月26日、アルバイト先である、浜田市のショッピングセンター内にあるアイスクリーム店にいたことが確認されている。そして同店の営業終了後、午後9時15分に建物から出たのを最後に、行方がわからなくなっていた。前出の記者は言う。

「その翌日の27日、Aさんと連絡がとれないことを不審に思った母親が、彼女の住む学生寮に連絡を入れました。そこで寮に戻っていないことが判明し、28日に浜田署へ捜索願を出しています。しかし、有力な手がかりが集まらなかったことから、11月2日に公開捜査へ切り替えたばかりでした。そんな事情がありましたから、身元不明の遺体が発見されてすぐに、Aさんであることがわかったのです」

 香川県出身のAさんが大学に通うため、人口6万人あまりの浜田市へやって来たのは約半年前のこと。交友関係などは限られていることから、当初は重要参考人の絞り込みは容易であると見られていた。もちろん、Aさんとは面識のない“流し”の犯行である可能性も考慮されていたという。

 私は発見された遺体の身元が判明した当初から取材に関わっており、浜田市の大学や学生寮、アルバイト先などを中心に、遺体発見現場となった北広島町の臥龍山周辺も含めて、聞き込み取材を続けていた。

国際機関で働くのが夢だったAさん

 高校2年のときに語学研修の目的で、アメリカ・ユタ州を訪れてホームステイを経験したAさんは、将来は国際機関で働きたいとの夢を持っており、大学でもNGOサークルで、途上国の貧困・飢餓の撲滅を啓発する活動に取り組んでいた。

 島根県立大学の学校関係者は当時、「(Aさんは)授業に真面目に出て、友人も多かった。海外に雄飛するという夢の実現に向けて努力していた、未来ある人生が断ち切られた」と、無念の思いを口にしている。

 Aさんが最後に目撃されたショッピングセンターから学生寮までの距離は約2.5キロメートルあり、夜間に人気のない山道を抜けなければならない。Aさんの同級生は語った。

「寮は丘の上にあるので、私たちは街中から寮に帰ることを“登山”、寮から街中に出ることを“下山”と言っていました。車やバイクを持っていれば別ですけど、それ以外はバスかタクシーか歩きしかありません。夜になると本当に道が真っ暗になるのですが、バスの本数は少なかった。Aさんは『貯金したいから、タクシー代を節約して歩くんだ』と話していました」

 この同級生によれば、Aさんは「海外でのボランティア活動に行きたい」と語っていたそうで、そのための貯金をしていたという。

 また、Aさんと同じ寮に住んでいる別の同級生は話す。

「事件が起きてすぐに寮生全員が大学内の一室に集められ、警察から事情を聞かれました。そこではAさんについて、気になったことはないか、当日の夜に何をしていたのか、バイト先はどこか、帰り道のルートはどこを通るのかを細かく聞かれました」

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