ベッピ・キュッパーニ著 中嶋浩郎訳「救い」

文藝春秋BOOK倶楽部

佐久間 文子 文芸ジャーナリスト
エンタメ 読書 歴史

戦国時代に西洋と東洋が巡り合う歴史小説

 天正7(西暦1579)年。戦国時代が終わりを迎えつつある日本に、2人のイタリア人がやってくる。

 アレッサンドロ・ヴァリニャーノはイエズス会の巡察師、アルヴィーゼ・モーロは貿易商人である。同郷の2人には確執があるらしく、若き日に何があったかは、小説の終盤で明らかにされる。

ベッピ・キュッパーニ著 中嶋浩郎訳『救い』(みすず書房)5500円(税込)

 歴史好きなら、ヴァリニャーノの名前を見てピンと来るかもしれない。イエズス会アジア管区巡察師で、天正遣欧少年使節を発案、実行したのがヴァリニャーノである。彼が連れてきたムーア人召使いのジョゼは、織田信長に謁見した際に所望され、弥助と名前を変えて信長に仕えることになった。

 ルイス・フロイスや豊臣秀吉、有馬晴信、島津義久ら戦国大名、少年使節の千々石ミゲルら、歴史に名前が残る人物と、著者の創作による名もなき人々の人生が交錯する。娼館に売られた、天草の貧しい少女すずえは、アルヴィーゼと生活をともにする。ポルトガル人の父を持ちポルトガル語が少しわかるパウロは、最初のうちアルヴィーゼに仕え、アルヴィーゼを裏切って信仰に生きる道を選ぶ。

 物語を展開させる鍵になるのが4つの壺だ。アルヴィーゼは航海の途中、フィリピン沖で難破した際に、箱に入った陶器の壺を入手していた。茶の湯が隆盛していた日本では「ルソン壺」と呼ばれ、茶を熟成させると珍重されていた真壺で、アルヴィーゼはそうと知らず、とんでもないお宝を持ち込んでいたのだ。壺は高額で取引され、時に休戦までもたらしたりもする。

 宣教師たちの書簡や報告書、仏教や茶の湯に関する専門書など、さまざまな歴史資料を博捜したうえで、比較文学者で、漫画家ヤマザキマリさん(本の裏側にヤマザキさんがアルヴィーゼの肖像画を寄稿している)の夫でもある著者は、歴史からこぼれ落ちる個人の内面を深く掘り下げ、彼らのそのときどきの思いを描くことに情熱を傾ける。

「心に驚きでも哀れみでもなく、その2つの影のような感情が広がっていくのを感じながら、彼をじっと見ていた」

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source : 文藝春秋 2024年2月号

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