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“がんサバイバー”森省歩さんによる、渾身のがん治療の最前線レポート

編集部日記 vol.55

電子版ORIGINAL

ライフ 医療
森省歩氏 ©文藝春秋

 6月号「がん先進治療ここまで来た!」では、36ページにわたる特集を組み、ジャーナリストの森省歩さんに最前線の現場を歩いて頂きました。

 昨年11月から始まった取材では、千葉県柏市にある国立がん研究センター東病院に計4回にわたり通い詰め、6名の先生方にみっちりインタビュー。その後、放射線治療の最前線を知るべく神戸低侵襲がん医療センターへ飛び、さらには遺伝性がん治療を牽引する岡山大学病院の平沢晃医師のもとへも飛びました。

 何を隠そう、森さんは2012年5月にステージⅢaの大腸(S状結腸)がん切除を経験した“がんサバイバー”。ステージⅢaということでリンパ節にも転移があり、手術の成功から12年経ったいまもなお「再発」の恐怖と隣り合わせの日々を送られています。

国立がん研究センター東病院 ©文藝春秋

 そんな森さんにとって、取材活動の負担は私の想像を超えるものでした。記事中にも書かれていますが、術後から恒常的な「便通異常」に悩まされており、起床後、最低3時間は間欠的な便意に襲われるため、出発の少なくとも3時間前には起床し便通を整えなければなりません。7時に出発したければ4時には起きなければならない。普通なら半日で終わる取材が丸1日、1日で終わる取材が丸2日かかるような計算です。

 加えて、免疫力の低下に伴い感染対策も徹底していました。公共交通機関は使わずに自車で移動するため、たとえば岡山大学へはご自宅のある神奈川県から前日に片道7時間以上かけて向かっていたのでした。取材に赴くだけでも大変な時間と労力を要しましたが、編集者にそうした愚痴をこぼすことはありませんでした。

神戸低侵襲がん医療センター ©文藝春秋

 2人に1人が罹患する「国民病」たるがん。「がんと共に生きる」とは、聞き慣れた言葉ではあっても実践することは容易ではありません。私の父も二年前にがん闘病の末に亡くなりましたので、がんと生きることの苦労は目の当たりにしてきました。きっと多くの読者のみなさんが、ご自身の身体となんとか折り合いをつけながら毎日を過ごしているのだろうと想像します。

 がんと向き合う時、「正解」はひとつではありません。選択を迫られる度その人の生活や価値観が問われます。がんサバイバーとしての森さんは、患者のつらさを誰より知っているからこそ、「治療後のQOL(生活の質)はどちらが高いか?」「初回治療から使える薬なのか?」「金額は?」「全国の医療機関での実施状況は?」など、患者目線での「問い」を繰り返していました。ときに、先生方に驚かれても構わず問い続ける、疑問を払拭する森さんだからこそ書けた、等身大のレポートになったのではと思います。ご参考にしていただけたら幸いです。

(編集部・佐藤)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ライフ 医療