小説、映画、絵画……創造の過程が甦ってきた
父石原慎太郎が亡くなってから、2年余り。この間、膨大な量の遺品を整理してきました。父と縁の深かった方々に形見分けしたり、母校の一橋大学や幼少期を過ごした小樽の文学館に寄贈したりしましたが、それでもまだ、兄たちから保管を託された段ボール30、40箱分の遺品が私のもとにあって、仕事場に所狭しと並んでいます。
遺品を年代別やジャンル別に整理することは、石原慎太郎の人生を辿る作業ともいえます。「思っていた以上に破茶滅茶だな」とツッコミながらも、若くして父を世に送り出す源となった父自身の才能とエネルギーを再確認する貴重な時間になっています。
本誌2024年3月号「父慎太郎を作った人と言葉」でお話しした後、編集部から遺品をグラビアページで紹介させてほしいという依頼がありました。そこで今回は父の青春時代に焦点を絞って、絵画や映画、そして小説の創造の過程を物語る貴重な遺品を選び、それらの背景を述べたいと思います。
遺品の整理をする中で驚いたのは、父が10代の頃からドローイングを描いてきたスケッチブックが、100冊ほど出てきたことです。ただ、捲ってみると最初の1、2ページを描いただけで終わっているものがほとんどで、最後まで描き切ったものはわずか2冊だけでした。いかにも父らしいことです。
父はアイデアが浮かぶとすぐに行動に移す人でした。15分単位で脳内の思考が切り替わる。何かをしていても他のアイデアが浮かぶと、突然に別のことを始めるのです。だから何か絵画的なイメージが思い浮かんだ時に、真新しいスケッチブックが常に手元になければいけない。膨大な量のスケッチブックの理由はここにあります。
スケッチブックには、生涯にわたり描き続けた自画像が数多く残されていました。様々なタッチが駆使されていて、その時々の父の人生を思い浮かべることができます。
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source : 文藝春秋 2024年7月号