昭和43(1968)年にフランス映画社を設立し、外国映画の良作を数多く日本に紹介した川喜多和子(1940〜1993)。川喜多からの依頼を受け、「旅芸人の記録」をはじめ、テオ・アンゲロプロス監督作品の字幕翻訳を手掛けた、作家・池澤夏樹氏が在りし日を振り返る。
洋画を輸入して公開する業界のプリンセスとして生まれた。つまり、父は1928年に東和商事(後の東宝東和)を作って多くの名画を日本に紹介した川喜多長政、母は共にこの会社を率いた川喜多かしこ。
しかし和子は父母の会社を継がず、独立して柴田駿と組んでフランス映画社を興した。新しい時代の映画を自分たちのセンスで選んで見せたかったのだ。
20歳の時に伊丹十三と結婚。その後、伊丹は「ロード・ジム」などに出演する国際的な俳優になったが、6年後に宮本信子に走り、和子とは離婚。だからエッセイストとしての伊丹の名作である『女たちよ!』の冒頭にある「別れた妻/そうして/まだ見ぬ妻たちへ」という献辞の前者は和子である。
フランス映画社はすばらしかった。BOWシリーズという名のもと、ヨーロッパを中心に次々に名作を日本で公開した。ゴダールの「勝手にしやがれ」、ヴィスコンティの「家族の肖像」、オルミの「木靴の樹」などなど、この時代の洋画の雰囲気を一新した。
洋画の輸入の要はヨーロッパ各地の映画祭で初めて見る新作の評価である。いいものであると判断すれば買う。その先は日本語の字幕を作り、映画館を確保し、宣伝を展開する。
ここから自分のことになる。ぼくは1975年からギリシャに移り住んだ。その年の秋、一本の映画が国中で大評判になった。それがテオ・アンゲロプロスという新人に近い監督による作で、後の邦題は「旅芸人の記録」。
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