「苦し紛れの言葉など通用しない」。震災、コロナ、AI…激動する現代社会と歩んだ20年の記録
芥川賞の選考委員を打診された時、あなたはもう新人ではないのです、と言い渡された気がした。未熟な書き手を育てていこう、という情熱にあふれた編集者の庇護から、自分は弾き飛ばされたのだ。親身になって手を引いてくれる人を、いつまでも頼りにしている場合ではない。自分の足で立つべき新しい場所へ、移動しなければならない。そんな思いが渦巻いた。
初めて選考会に参加したのは、第137回。受賞作は諏訪哲史さんの「アサッテの人」だった。今思い返しても、他に例がないほどスムーズに受賞作が決定した。最初から迷いなく「アサッテの人」を推そうと決断でき、他の委員の評価も高かった。
無意味な言葉に閉じ込められる男を、社会とのつながりからこぼれ落ちてゆく人間の象徴としてではなく、ただありのままに描写し、結果、男の声を小説の枠の向こうにまで響かせる作品だった。自分の一番推したい作品が受賞となって、安堵した。しかし、芥川賞はそんなに生やさしいものではないと、すぐに思い知らされることとなる。
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