「監督になんでも話せる」関係性をつくらない

私が大切にしている10のこと

須江 航 仙台育英高校野球部監督
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「きれいごとだけでは選手は納得しません」

(1)野球部員全員を競争させる

 野球の指導者として、教育者として、全ての選手にチャンスを与えることは僕の責務です。選手たちは野球が上手くなるために仙台育英の硬式野球部に来てくれたのに、「3年間、ちゃんと野球をやった、上手くなった」と思って卒業してもらえなければ、部活動の運営としては適切ではないとさえ思っています。自らの意志でこの学校を選んでくれたからには、選手としてグラウンドで完全燃焼してもらいたいのです。

 野球部は毎年、全体で75人前後の部員がいます。公式戦でベンチに入れるのは20人。選手たちに意識させることは、「自分は常に競争に参加できているんだ」という自己肯定感です。「レギュラーと控えが一体となって戦う」といった、全員野球が高校野球の美学のように語られますが、そんなきれいごとだけでは選手は納得しませんし、育ちません。僕自身、それは指導者、教育者としての逃げだと思っています。

身振り手振りも交えて語る須江監督 ©文藝春秋

 監督と同時に教師でもある立場から言わせていただくと、「人を育てる」という表現は実に曖昧です。教師には、試験で「クラスの平均点が10点上がらなければ減給」のような査定基準はありません。その生徒が「どのようにして成長しているのか」といった項目も明確化されていません。僕は「やった気になっている教育」にならないために、できるだけ物事を“見える化”させて子供たちと接するようにしています。

(2)選手のデータには温かみがあり、可能性が込められている

 教育において、子供たちを差別することは絶対にしてはいけません。ただし、適切な成長を促すための区別は必要です。「自分の実力はチームでどのあたりか?」「強みや足りないものはどこか?」。そういった現在地を本人に理解させるために選手を「数値化」し、能力に即した指導を心掛けています。

 僕が数値化をチームに導入したのは、仙台育英との一貫校である秀光中学校で軟式野球部の監督をしていた2011年。優勝への自信を持って臨んだ全国大会の初戦で敗退してしまった時のことでした。敗戦を分析するなかで「気合いや根性だけでは勝ち上がれない」と、それまでの育成法に限界を感じたことが数字と向き合うきっかけでした。

 仙台育英では入学直後に「野球力測定」を実施、選手のその時点での能力やプレーヤーとしての適性を見定めます。打撃は打球速度や距離。走力なら塁間約27メートルを走る速さや複数の塁を跨ぐテクニック。守備では内野は捕球してから一塁へ送球するまでのタイムと、より実戦に近い項目を設けています。スタート段階で自分を知ることによって、選手たちは取り組むべき練習が具体的に見えてきますし、監督である僕も選手の特性を見極められる。

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source : 文藝春秋 2024年1月号

genre : ライフ スポーツ ライフスタイル 教育